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歯周病は、これまで、お口の中だけの病気と考えられてきました。歯周病は、軽度のものも含めると、日本人の成人の約70~80%の人が罹患していると言われています。
近年では、歯周病が糖尿病や誤嚥性肺炎、早産など、様々な疾患の原因となることが明らかになり、歯周病が単にお口の中だけではなく、全身の健康を脅かす病気であることがわかってきました。このことからも、常日頃から、歯周病の治療や予防をしっかりと行うことが、全身の健康を守ることにもなるということができます。
歯周病と全身疾患が深い関連性を持つことが明らかになってきましたが、その要因としては、歯周病原菌や内毒素(LPS)、炎症性サイトカインが歯周病部位から血流によって全身に広がることで影響を与えると考えられています。
また、一方では糖尿病や骨粗鬆症が歯周病の進行リスクを高めることも明らかになっています。
したがって、歯周病を単なる口腔疾患ではなく全身疾患の一部として捉えることが、歯周病や、さらには生活習慣病などをはじめとした全身疾患の予防・治療につながると考えられます。
※2009.9.15 日歯広報より
歯周病菌が出す毒素をリポ多糖といいます。そのリポ多糖をマウスの皮下に4週間連続して埋め込んだ結果、肝臓に脂肪が沈着し、肥満へと結び付きました。歯周病菌から出たリポ多糖が、歯肉の炎症部分から血液中に入り込んでいくので、歯周病があると肥満に結び付くのです。
歯周病は糖尿病に、糖尿病は歯周病にといった具合に、お互いに関係しています。歯周病では、TNF-αという炎症性物質が作られてインスリンの働きを妨げ、糖尿病を悪化させることがわかってきています。糖尿病では、免疫力が低下して歯ぐきの炎症がおこりやすくなるため、歯周病が発症し、または悪化させることがわかってきています。
歯周病がひどくなると、歯肉の炎症はとても強くなり、歯周病菌が歯肉の血管に入り、体内に入り込んでしまいます。体内に入り込んだ歯周病菌は、血小板と反応し、血管壁に付着して増殖していきます。それが原因となり、心臓の血管が狭くなってくると狭心症となり、完全に詰まってしまうと心筋梗塞になることがわかってきています。
コレステロールなどがとりこまれて作られるアテローム
(おかゆ状の沈着物)
※歯周ポケット(歯と歯ぐきの間の溝)が4mm以上とは、軽度もしくはそれ以上の歯周炎をさす。
※「歯周病と生活習慣病の関係:歯周炎と動脈硬化・心臓病」より
妊娠中の女性で歯周病のある人は、歯周病の無い人に比べ、低体重児出産や早産する確率が高いことがわかっています。妊娠中の女性は、つわりによって口腔清掃が不良になりやすいため、歯周病に罹りやすくなり、歯周病による炎症性物質がへその緒を通じて胎児に影響するため、早期低体重児出産の確率が高まると考えられています。
肺や気管は、咳などの生理的な反応などによって守られています。しかし、高齢などにより生理的機能が衰えると、唾液や食べ物が誤って肺に入り、肺炎を起こしてしまいます。これを誤嚥性肺炎といい、唾液中に含まれる細菌が主な原因です。歯周病菌は肺炎の原因となるものが多いので、高齢、認知症、病中病後、手術後など、食べ物の飲み込みを上手く行えないときには、特に注意が必要です。
骨粗鬆症は、骨が弱く脆くなってしまう病気です。全身的に骨が弱く脆くなると、歯を支える歯周組織にも影響があると考えられています。また、歯周病は、歯を支える骨を破壊する病気です。骨が弱く脆くなると、歯槽骨も弱く脆くなり、歯周組織の破壊が進みやすくなるので、骨粗鬆症は歯周病を進行させる一因であると考えられています。
“メタボリックドミノ”という考え方があります。これは、慶応義塾大学内科学教授の伊藤裕先生が提唱する 、成人病の負の連鎖についての考え方です。一度倒れ始めたドミノは、それぞれが密接にかかわりながら倒れていき、ドミノの最後の方になると、 死の病となり、治療も難しくなっていきます。歯科領域でできることを考えてみると、まずは歯周病をしっかりと治療し、歯を失わないようにすることが重要であるといえます。
監修/伊藤 裕(慶応義塾大学医学部内科学教授)
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